2012年12月16日日曜日

若者よ投票に行こう?

よく 若者よ投票に行こう と言われるが、私は天邪鬼な性格も手伝ってか、いつも斜に構えてその言葉を受け止めている。

このスローガン、問題を解決しないどころか、もっと深刻な問題を覆い隠しているのではないか。


そう思う根拠を、3つの角度から書いた。

分量が普段の3倍以上になっている。

  1. 投票に行くことは手段であって、目的ではない

  2. 人口構造と今の選挙制度上、若者は自分たちの票だけでは政治を動かせない

  3. 実は若者を陥れているのかもしれない

  1. 投票に行くことは手段であって、目的ではない

    AKB48に いこっ。 と言われて投票所に行ったとしても、投票用紙に誰の名前を書いていいのかわからなかったので推しメンの名前を書いて帰ってきたのであれば、当然ながら政治は動かない。

    投票において重要なことは、行くことではない。

    何のために投票に行くのか という問いを立ててみればいい。

    • 子育てを支援してほしいとか、

    • 公共交通機関を増やしてほしいとか、

    • 年金を手厚くしてほしいとか、

    • 税金を取らないでほしいとか、

    • 他国から領域を守ってほしいとか、

    • 放射性物質を使わないでほしいとか、

    そういった各個人の思い浮かべる利益を、自分の立場から主張して政治に反映させる、それが投票の最終目標だ。

    そのためには、甘い言葉の香水で着飾った、しかし加齢臭やらエリート臭やらが抑えきれずにプンプンと滲み出てくる連中が居並ぶ中から、誰か一人を選ばなければならない。

    そして、その選定が恐ろしく大変で、コツが必要で、そして面倒くさいのだ。


    若さは選挙の経験の浅さに直結している。

    実際の国政や地方自治における選挙は、学校の生徒会で経験した選挙とは比べ物にならないほど複雑で大変だ。

    若いうちは候補者の甘言に惑わされないようにする力も弱いし、誰の考えにも好きなところと嫌いなところがあるという中から優先順位をつけて一人の候補者を選ぶという訓練もさほど積めていないし、そして何より、自分が政治に対して求めるものが何であるかさえまだ見極められていないかもしれない。

    そんな若者に対して、投票に行くよう促すだけでは全く不十分なのは目に見えている。

    投票率は結局上がらないか、もしかすると投票率こそ上がったものの、わかりやすいスローガンを掲げる候補者とか話題にのぼりやすく名前の知られている候補者にばかり票が集中して、健全な民主主義とやらは却って遠ざかってしまうかもしれない。


    現在はさまざまな形で候補者選びのサポートをするサービスが存在している。

    特にインターネット上の各種サービスの進化には目を見張るものがあり、現在ではボートマッチまでインターネット上で可能になっている。

    尤も、ただでさえ投票日までに投票に行くことすら問題になっているのに、それらのサービスを利用して候補者を絞るとなれば更に面倒な作業が増えることになるわけで、そんなものを自ら進んで利用しようという人がどれほどいるのかと問われると、あまり楽観的に考えることはできない。

    それに、各種サービスにもそれぞれに限界があり、万能サポートツールは残念ながら存在しない。

    それでも、一部の啓発キャンペーンが芸能人を看板に立てて 投票は義務 などと迫ってくるだけであることを考えれば、これらのサービスがあることを知らせていく方がまだマシな姿ではないだろうか。

  2. 人口構造と今の選挙制度上、若者は自分たちの票だけでは政治を動かせない

    これはもう既に別の記事で論じたので、詳細はそちらに譲る。

    日本の人口構成の関係上、小選挙区のような多数決で40代以上の人々によってある程度の結論が出てしまうと、20代や30代がその結論を覆すのは難しい。

    基本的にリングの外からの応援扱いだ。

    となれば、若者や次世代に有利な結論を導く方策が 投票に行く であるはずがない。

    もっと別の方法を模索しなければならない。


    表: 衆議院選挙の世代別推定投票数
    世代 2011年10月人口 前回推定投票率 推定投票者数
    人数 比率 人数 比率
    20代 13'174 12.72 49.57 6'530 8.88
    30代 17'442 16.83 63.96 11'156 15.17
    40代 16'993 16.40 72.52 12'323 16.75
    50代 15'794 15.24 79.66 12'581 17.10
    60代 18'391 17.75 84.07 15'462 21.02
    70代 13'274 12.81 80.73 10'716 14.57
    80代以上 8'540 8.24 56.10 4'791 6.51
    註:
    1. 単位:人数は千人、比率と投票率はパーセント。

    2. 推定投票率は資料をもとに世代毎に再計算。

    3. 太字は各項目の最大値。


    60代、三冠達成。

    図: 推定投票者数(表の右側)

    40代以上の2/3程度が投票した先があれば、30代以下はその結果を覆せない。


    もう若者には政治は動かせないのだ、と悲観したくなってくるが、もう少し考えてみる。

    30年前の人口構成なら、若者が団結すれば多数決でほぼ互角の人数を確保できた。

    1981年の人口で単純計算すると、20歳以上の合計がおよそ82'000'000人に対して、20歳以上39歳以下はおよそ36'000'000人。

    これだけでは届かないが、ここに40歳、41歳、42歳を合計するとおよそ42'000'000人となり、半数を超える。

    しかし今やそれは遠い昔の話であり、40代はおろか50代以上に及ぶ広範な協力なしには多数決で生き残ることはできない。

    そのことを、まずご年配の方々に知ってもらわなければならない。

    その上で、できるだけ若者や次世代のことを考慮した投票行動を取っていただけるよう、ご年配の方々に訴えていかなければならない。

    より極端に言えば、若者はご年配の方々に対し、自分たちと同じ投票行動を取っていただくようにお願いしなければならない。

    自分たちの票だけでは世の中を動かせないのなら、そうする以外にどんな方法があるだろうか。

    しかし現実には、政治とは冷酷な利害の衝突の現場である。

    こんな絵空事が本当に実現できるだろうか。


    そもそも、これでは間接民主制のメリットを日本の若者が全く享受できていないということになりはしないか。

    間接民主制は言うまでもなく議員を立ててプロとして政治に携わってもらい、各人の政治に関する負担を減らす仕組みだ。

    少し暴論であることを承知で思い切って言ってしまえば、選挙の際に候補者を選ぶだけで最低限の政治参加が果たせる仕組みである。

    それなのに、日本の若者はもっと積極的な政治参加をしなければ自分たちの意見を反映させられない状況に陥っている。

    この問題に取り組むと議員の選び方をはじめとして大きく話が逸れそうなので、今回はこの記事の末尾で軽く再検討するに留める。

  3. 実は若者を陥れているのかもしれない

    ここまで見てきたことは、少し考えればすぐわかることだし、政治運動をしているくらいの人々なら知らないはずのないことだと思う。

    まさか投票推進派の人々は、投票に行くこと自体よりも行った先で誰に投票するのか選ぶのが大変なのだとか、たとえ20代全員が投票に行っても40代以上の影響力には遠く及ばないのだとか、そういったことを知らないとでも言うのだろうか。

    とてもそうは思えない。

    すると、陰謀論めいた疑問が湧き上がってくる。

    実は投票推進派の人たちはこれらのことを承知の上で、わざと 投票に行くことが解決の第一歩です というように議論を捻じ曲げ、若者を誘導しているのではないだろうか。

    誰を選ぶか上手に決められない人を投票に行かせて、パフォーマンスの巧みな候補者が易々と勝てるようにする。

    そして、もし仮に若者全員が上手に投票先を選べるようになって投票にやってきても、所詮外野が少し賑やかになる程度であって、長老たちで粛々と政治は進められる。

    そういったことに若者を気付かせない方がいい。

    投票に行けば世の中を変えられるかもしれない という幻想を持たせて踊らせておけばいい。

    そんな思惑があるのではないか。

以上、3つの点から投票推進に対する疑問を見てきた。

自分でもさすがに考えすぎだとは思っている。

だが考えすぎな面を割り引いても、安易に 投票に行こう と言うのはやはり躊躇われる。

繰り返すが、投票に行くことは手段であって、目的ではない

若者が自分たちや次世代の利益のために行動しようと本気で考えるなら、自分たちの票だけではもはや全く不十分だ。

そのことを自覚して、何のために投票に行くのか、その目的を果たすには自分たちの票を適切に投じる以外に何をしなければならないか、考えて実行に移さなければならない。

日本の若者と次世代は、既にそこまで追い込まれているのではないだろうか。


そうまでして政治に関わる気は無い、という人もいるだろう。

それは尤もだと思うし、私自身も実のところそう思っている。

もともと性格的に政治運動など向いていないし、そうまでしないと政治が動かせないというならば別に動かせなくてもいいやと思っている。

であるならば、別に投票に行っても行かなくても結果は同じであり、行ったところで大して意味は無い。

一応投票にだけは行き、政治に参加した気分になれて、義務を果たした気分になれて、他人からなぜ投票に行かないのかと文句を言われることもなく、何となく自己満足に浸って、そして結果を見て 結局こうなるのか と愚痴を垂れる。

そんな 任意の一点 に、私はなりそうな気がする。

他力本願な私は、願わくば政治運動をしている若い人々、特に投票推進運動だけをしている人々に 投票推進だけでは不十分なのかもしれない と感じていただき、更なる活動へと躍進していただくことを願いながら、今日もとりあえず選挙公報を読む。


一応、この絶望的な政治運動以外にも、まだ解決策はある、と思う。

その中でもっとも有力ではないかと考えているのが、選挙制度を変更して、世代別に代表を選ぶことだ。

選挙人名簿には生年月日が記載されているのだがら、投票者の世代はわかっている。

そこで、選挙人名簿をもとに、20代、30代、40代、、、の人数比を出し、これに応じて各世代に議席数を割り振っていく。

20代が選ぶ議席配分と60代が選ぶ議席配分に違いが出たとしても、世代の人数比が隔壁となって両者の意見が相応に反映される仕組みだ。

その上、投票時点における一票の格差もほぼ消滅する。

なお、別に若者が高齢の候補者を推したり、逆に高齢者が若い候補者を推すこと自体は特段問題が無いだろうから、候補者側まで年齢に応じて切り分ける必要はないと思う。


ただ、これでは選挙区制に馴染まないので、どうしても全国比例代表制にして対応する必要が出てきてしまう。

二大政党制を目指して主張を展開してきた方には受け容れ難い制度になりそうだ。

それに、投票用紙の集計負荷もかなり上がってしまうので、電子投票制度、最低でも電子投票機を導入する必要が出てくるだろう。

そもそも、こういった選挙制度の変更に関しても、政権を自分たちで選ぶだけの人数を持っていない若者からすれば、時の政権の温情をいただかないことには実現しない。

それでも、若者に政治運動を強いるよりはまだ現実的な選択肢のような気がする。


自分たちの票を投じるだけでなく、より積極的な活動をしない限り、政治的にはいてもいなくても同じ。

繰り返しになるが、日本の若者と次世代は、既にそこまで追い込まれているのではないだろうか。

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