2011年6月11日土曜日

ルートC固定法

少し音楽理論の専門的な話題。

ポピュラー音楽におけるコード

ポピュラー音楽にはコードという概念がある。

個々の「音」すべてを指定する代わりに、その瞬間に聴こえて欲しい「響き」を指定するものだ。

演奏家はコードに従う限り音やリズムを比較的自由に選択でき、作曲家は細かな音の指定を演奏家に任せることで別のことに時間を費やすことが可能になる。

必ず演奏して欲しい重要な音やリズムだけ具体的に指示し、後はコードを書いて演奏家に委ねる、というのが一般的だ。

このためポピュラー音楽に携わる限りば、演奏するにせよ作曲するにせよコードと無縁でいることは難しい。

コードと静止画の類似性

こうして多くの者がコードを学ぼうとするわけだが、これがなかなか難しい。

様々なコードを覚えるだけでも一苦労だが、最大の壁はコードを覚えた後、実際にそのコードを演奏や作曲に応用しようとするときに現れる。

音楽は絵画とは違って動的で、次の響きへと変化していく進行性を持っている。

当然、各種のコードもその進行性を示す役割を相当程度担っている。

その進行性の認識が無いままでは、いわばそれぞれの静止画を描くことはできても、それらの静止画をつないで動画を作ることができないような状態になってしまう。

もともとコードには「和音」という訳が当てられ、「和声」という訳が当てられ旋律全体を見通しているハーモニーとは異なり、ある一瞬を切り取ったそのときの響きに焦点が当てられている。

音楽の中の、あるいはハーモニーの中のコードとは、まさに動画の中の静止画のような存在なのだ。

しかしコードを最初に覚える段階では、通常コードがそういった進行性を持っていることは語られないし、場合によってはこういった進行性という視点がいずれ必要になるということすら示されないこともある。

これでは、応用段階に入ってつまづいてしまうのも無理もない話だ。

ルートC固定法の弊害

特にコードの形状の説明がしやすいためによく用いられる、コードのルートをC音に固定して様々なコードを覚えていく方法だと、この弊害が強く出てしまう。

ここでは、勝手ながら「ルートC固定法」と名付けておこう。

ルートC固定法は、6thや7th等の付加音、dimやaugなどの変化音、その他にも様々な説明がとてもしやすいため、頻繁に用いられている。

しかし、ルートC固定法は非常に静止画的な仕組みで、各コードが次にどんなコードへとつながっていく可能性があるか、という視点が抜け落ちやすい。

例えばC7は、ルートこそC音だが実際にはFへの進行力の方が強く、キーの観点から見てもCメジャーキーに属しているとは限らない。

このように、ルートをCに固定してしまうと、コードを静止画的に捉えることが増えてしまうだけでなく、CをルートとするコードがC以外のキーに属している場合がままある、という事実も見えにくくなってしまうのではないか。

1つの代替案「ダイアトニック法」

こういった弊害をできるだけ食い止めるためには、コードは動画の中の静止画に過ぎない、ということに早くから触れると同時に、もう1つのアプローチを併用するという手があるのではないかと思う。

それは「ルートではなく、キーをCに固定する」という発想だ。

昨今は唐突な転調を伴う曲が多くなったが、曲全体までは行かなくても、曲の流れの一部を見通す上でキーという視点は非常に便利だ。

キーを固定してダイアトニックコードを俯瞰し、各コードの進行方向や関連性を掴む。

第7音を各ダイアトニックコードに付ければ、Cメジャーキーの中でG7が唯一の7thコードであることを示すことができるし、ドミナントの意味合いも強く訴えることができる。


と書いてきたは良いものの、実際に私が音楽の教育をしているわけでもない。

各コードを覚えながらダイアトニックコードに並行して取り組むというのがどれほど困難なのか、実感を伴って想定することもできない。

今言えることは、コードは静止画であり、最終的に動画へと活かすためにはもう1つの工夫が必要で、ルートC固定法だけではそこまで補えないのではないか、ということだけだ。

ルートC固定法でコードは覚えたけど演奏には活かせていない、という方がいたとしても、それは仕方の無いことだ。

静止画を覚える時代が終わったならば、ファンクションと呼ばれる音楽の流れのタイプを学ぶことで、次のステップへ、曲の中でコードを生かせる段階へと進めるはずだ。

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